セーラー服の入管職員(決めぜりふを聞きたいもんだ)

「茶でもしばきませんか?」
昼頃、ミゾ山くんからメールが来た。
まだ2度寝途中の心地よいまどろみの中、現実を直視せざるを得ない状況に追い込まれる。
返信:「金がない」
ミゾ山くんからの返事はなかった。

それからあまりにも失礼な内容の返信だったかなと思い直し、ごそごそと起き出すと、財布の中身を確認した。
いつもの待ち合わせの横浜駅までなら、往復分+数十円はある。
私はまたメールを送った。
「電車代はあるよー。横浜ならね。奢ってもらう気満々で行きますが、なにか?」
ミゾ山くん:「おけ」


というわけで、いつもの6時過ぎ、モアーズ前。
ミゾ山くんは髪の毛をさっぱりしてきてた。彼は髪の毛が羨ましいほど多い。
スタバるのかなと思ったら、裏路地の雑居ビルの3F、桃月花という店へ。ここはなにを頼んでもそこそこうまい。一品一品が出てくるまで時間がかかるので、話し込むのにはちょうどよかったりする。今までも何度か使ってる。
流れで、メシまでおごってもらうことになってしまった。


サラダをつつきながら、彼が初夏に行った、長野の農業体験に話は飛んだ。
「中国産の野菜が怖いとか言うけど、俺の行った農家もすごかったよ。ぜったい喰いたくないね、高原野菜って売りにしてたけど、どんだけ農薬つかってんだって感じ」
「へぇ、実態ってそんなもんなんだー」
「しかも、実習生という名目で外国人が働いてる。日本てここまで外国に頼ってるんだと実感したね」
「それって違法なのかな? めちゃめちゃ少ない金で働かせられてそうだけど、寝床もあるし3食昼寝付きなら日本に働きに来られるだけでもいいのかもね」
「入管らしき人が普通にうろうろしてたしねー。昨年あたりから厳しくなってるらしいって」
「じゃあやっぱ違法なんだー」
どこがどう違法なのかわかんなかったし、べつにわかろうともしないんだけど。
ふとわたくしスカイは箸を持つ手をとめ、ちょっと前にみた夕方のテレビのニュースの内容を思い出した。
「ミゾ山くん、ミゾ山くん、私、それ関係で面白いテレビ見たことあるわ」
「ん?」
「外国人の不法滞在や不法就労の取り締まりでね、入管の若い女の人がね、怪しまれないようにって女子高生に変身してとりしまるの。ルーズソックスだったし、スカートのウエスト折ってるあたりがリアルだったわぁ。カバンも持ってたと思う、ちゃんと学生カバン! どこから出てくるんだろね、小道具って」
「さすがに一緒に働いてる外国人が捕まってる場面は見なかったけどなぁ」
「女子高生が『はい、後ろ向いて、手を出して』とか命令してるんすよ、外人さんに。手錠とかしてたのかな? そこまでもう覚えてないけど、いやあね、あれはもう一種のフェチじゃないかと。ある人種には鼻血ものだろうと私はそう思った次第ですよ」
「……チミ、やっぱどっかおかしい」
「んまあ、そらぁ15年以上前から知ってるだべや?」
「確かに」
「そんなのにずっと親友で居てくれるミゾ山くんも同類さ」
「うーん、マンダム」と言って欲しかったが、彼ははにかむだけだった。