動物園くんの場合

バーで飲んでて、同居人のイ・ソウロウさんとその場で知り合った人たちと盛り上がってると、カウンターの端にぽつりと飲んでる男性がいた。私がトイレに行っている間にイさんはその男性に声をかけたらしく、トイレから出てきたときに「おいおい」とカウンターで呼び止められてしまう。
「にゃ?」
その返事は、「なんだにゃ?」の省略形。
振り返ると、イス1つ空けて、さっきまで1人で飲んでいた男性とイさんが座ってて。
何やってんの、イさんー! って思ったんだけど、男性の顔を見て正直、惹かれた。激しくいい男! フォー!!
さっそく真ん中陣取って話し込んでいると、中身も悪くない感じ。しかも私と同じで酒が飲めないという。しばらくアルコールらしき物(飲めない同士なので通じてるかどうかがわからない)の話で盛り上がった。
彼の憧れは、酒の強い男だという。行きつけのバーで「マスター、いつもの」とショットをくいっとあおり、「じゃ」と言って立ち上がってスッと出て行くようなことに憧れを抱いているという。
「え、別に、それって、やればいいだけのことじゃないんすか?」
「いや、『じゃ』って言った瞬間に、トイレ駆け込むか、店を出たとたんにしゃがみ込むようじゃダメでしょう〜」
「たしかに!」
そういえばと思って名前を聞くと、「動物園です」と答えてきた。そう来たか。
とっさに私は「じゃあ、頭ん中とか色々動物住んでるんすか?」聞いてしまう。
「今はナマケモノ
間髪入れずに返事があったので、こりゃあ強モノか本モノかだなと思った。
ナマケモノいるって、そうとう大きな動物園ですよね」
「ですね。色々住んでます」
ズーラシアくらいな?」
「サファリパーク、ナイトモードくらいバリエーションあります」
あ、こりゃあ本モノだな、と。
年齢話ついでに干支の話になり、彼は虎とのこと。私は辰だった。
「辰っていいじゃないですか、だって竜でしょ」と、彼は言ってきた。
「え、タツノオトシゴじゃ……」
めちゃめちゃ貧弱なイメージだったのに、最強動物出されちゃった。
「あー、年賀状イラスト集とかにありますよね」
eメールじゃないあたりが、ありがたい年代。子どもの頃はだいたい手書きの年賀状だからね。
「ドラゴンいっちゃいますか。そうなると、干支で唯一現実に存在しない妄想動物になっちゃうんですよぉ」
「大丈夫でしょう、僕、妄想大好きだし。そこまで干支を強く語る人も普通いませんしね」
「ふっ、語っちゃった。だって自分だけ妄想動物年……」
っていうか、妄想大好きって……。本モノも本モノだわ。
その後、場所を変えてクラブで飲み直したんだけど、彼は1人で踊ってて、独特のリズムを持った人だった。


電話番号とメアドを交換してちょこちょこメールしてるので、また彼とは会うだろう。



※3日後にもまた会いました
動ちゃん、面白いわー